歯茎が下がらない!?歯周病治療「マイクロスコープ」
歯周病は、細菌が歯茎に感染し、歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしていく感染症です。初期段階では自覚症状がありませんが、徐々に歯茎の腫れや出血といった症状が起こり、
さらに進行すると歯が動揺して抜け落ちてしまいます。
歯周病を改善するには、細菌のかたまりである歯垢を、症状が悪くなる前に取り除くことです。「マイクロスコープ」を使った歯周病治療であれば、
従来の方法よりも精密な治療が可能なので健康な組織を傷つけず、患者さんの不安が解消されるかもしれません。
マイクロスコープによる歯周病治療とはどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。
細部までよく見えるマイクロスコープ
歯科では、歯間や歯茎の下、それに根管(歯の血管や神経が通っている空洞)など、肉眼では見えにくいところを治療することが多々あります。
患部を拡大して見る拡大鏡では倍率は2倍〜でしたが、マイクロスコープという大型の装置では、20倍以上も拡大できるものもあります。
また、患部に光を当てることができるため、狭くて暗い奥歯もはっきり見ることができます。さらに、映像を録画することもでき、
患者さんが一緒に口内の様子を見ながら説明を受けられるというメリットもあります。
マイクロスコープが重宝されるのは、細い歯の根っこを治療する「根管治療」です。根管は非常に細いうえに複雑なので、肉眼での治療が難しいとされていました。
従来の根管治療は感覚に頼って行う治療に近いですが、マイクロスコープを使えば根管の中を細部まで確認できるので、従来の方法よりも正確に治療しやすくなります。
また、歯と歯茎の間、または歯の根などに付着した歯垢・歯石を取り除く歯周病治療「SRP(スケーリング・ルートプレーニング)」でも、マイクロスコープが活用されています。
従来の歯周病治療の問題点
歯周病治療の基本は、歯に付着した歯垢や歯石を取り除くことです。歯垢や歯石は歯と歯茎の間や歯間、歯の根といったところにも存在します。
歯茎より上に付着する「縁上歯石」であれば目視で確認できますが、歯茎より下の「縁下歯石」は処置を行うことが難しく、
処置の方法によって歯周組織の表面を傷つけてしまうおそれがあります。
歯垢や歯石の除去には歯科医師や歯科衛生士の手先の感覚や経験が頼りになってしまい、施術者の技術力によって結果が左右されるものでした。
特に、歯の根っこの表面は「セメント質」と呼ばれる組織で守られています。セメント質を誤って沢山削ってしまうと知覚過敏を引き起こす原因になり得ます。
マイクロスコープを用いた歯周病治療の特徴
歯周病が進行すると歯と歯茎の間には歯周ポケットと呼ばれる隙間の奥深くに歯垢や歯石が付着し、肉眼で確認するのが難しくなってしまいます。
歯周病治療でマイクロスコープを活用すると、歯周ポケットの奥深くの汚れまで見えるようになり、歯垢や歯石を目視できる範囲が広がります。 また、光を当てて治療できるので、狭く暗いスペースも確認しながら処置を行うことができます。
術者の技術に左右される歯垢や歯石を取り除く治療は、残念ながら取り残しが見られることもあります。
しかし、マイクロスコープを使い1~2回の治療で隅々まできれいにできれば、
短期間で治療を終わらせることができます。
ただし、マイクロスコープを使用しての処置は難しいため1ヵ所ごとに時間がかかる傾向にあります。マイクロスコープで歯周病治療を受ける場合は、
トータルでどれくらい時間が必要になるのか、担当医に確認しておくとよいでしょう。
マイクロスコープを使えば歯茎は下がらないの?
歯周病が進行すると、細菌が歯を支える骨を溶かし、歯茎が炎症を起こしてしまいます。そのため、歯茎が下がっていくことがあります。
それでは、マイクロスコープを使って徹底的に歯垢や歯石を取り除けば歯茎も上がってくるのかというと、必ずしもそうではありません。
患者さんの中には、「歯周病治療を受けた後に歯茎が下がってしまった」と報告されるケースもあります。
これは、治療前の歯茎が腫れているために一見正常な位置を保っていたものが、歯垢や歯石を除去して歯茎が引き締まったことにより、腫れが引いて歯茎の位置が下がったように見えることによります。
つまり、歯茎の炎症が治まっている証でもあり、治療後の正常な経過といえます。また、治療によっては腫れてしまった歯茎の切除が必要な場合があり、歯茎が下がって見えることがあるでしょう。
従来の歯周病治療では、歯垢や歯石を除去するためのスケーラーという器具を使用してスケーリング(歯石除去)を行う際に、見えにくい位置の健康な組織を傷付けてしまい、
歯茎の状態に影響している可能性があるといわれています。
マイクロスコープを使った歯周病治療であれば、患部が細部まで見えて治療しやすいため、細菌に侵されていない健康な組織を傷つける確率は低くなります。
そのため、歯茎が下がる可能性が肉眼での治療より低くなると考えられます。
自費診療となるケースが多い
マイクロスコープを使用した歯周病治療は、自費診療のケースが多く見られます。
マイクロスコープは肉眼では見れない細かな部分にアプローチできるため、まとまった時間が1回の治療毎に必要となります。
また、マイクロスコープを使うには、相応の知識と技術が求められます。必要とする時間や技術的な面から、公的医療保険を適用して行う歯科医院は少ない傾向にあります。
ただし、「マイクロスコープを使うから保険診療にならない」というわけではありません。 歯医者さんの経営方針によっては、マイクロスコープによる保険診療を行なっているケースがあります。マイクロスコープを使った歯周病治療を受けたいという方は、 事前に歯科医院に確認や相談をするとよいでしょう。
まずは歯医者さんに相談を
マイクロスコープはまだまだ歴史が浅く、国内での普及率は1割ほどだと言われています。(2021年2月時点) マイクロスコープでの歯周病治療をご希望される場合は、導入している歯医者さんを探して相談をしてみましょう。 歯周病の進行度や症状によっては、マイクロスコープを使用しない従来の歯周治療で改善できることがあります。希望する治療方法や時間、費用など、さまざまな面からご検討ください。
【監修歯科医師】
- 歯科医師:古川 雄亮 先生
- 国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事
- 歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加
- 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
[参照URL] https://www.nature.com/articles/s41598-019-51077-0
記事提供
この記事は、株式会社メディカルネット(東証グロース上場)の提供でお届けしております。社内の歯科医師、及び、歯科衛生士、歯科技工士による監修のもと記事の作成を行っております。
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